「社内プロダクト」として導くプラットフォームエンジニアリング成功への道
なぜ認証は自前実装せずAuth0を使うのか?
多くの開発チームは、認証機能を自前で実装する代わりに、Auth0やOktaのようなSaaSを利用します。なぜでしょうか?答えは明白です。
- 専門性と信頼性: 認証はセキュリティの要です。専門企業が提供するサービスは、脆弱性対策や最新のプロトコル追従など、自前で維持するには膨大なコストがかかる専門知識を肩代わりしてくれます。
- 機能の豊富さ: 多要素認証(MFA)、ソーシャルログイン、シングルサインオン(SSO)など、要求される機能は多岐にわたります。これらをゼロから作るのは現実的ではありません。
- 開発速度の向上: 本質的なビジネスロジックの開発に集中できます。
開発者は、「自分たちで作るよりも、これを使ったほうが圧倒的に得だ」と判断するからこそ、お金を払ってでもSaaSを利用するのです。
そして、この思考プロセスこそが、プラットフォームエンジニアリング(PE)を成功に導く鍵となります。
プラットフォームエンジニアリングも「選ばれる」存在であるべき
PEの失敗事例でよく聞かれるのが、「組織としてこのプラットフォームを使え」というトップダウンの強制です。これは開発者から強い反感を生みます。なぜなら、彼らにとってそれは「自由の剥奪」であり、「面倒な制約」の押し付けに見えるからです。
成功するプラットフォームは、Auth0のように、開発者から自発的に選ばれる「社内プロダクト」でなければなりません。開発者が「このレールに乗れば、最も速く安全に本番リリースできる」という成功体験を感じられること、つまり開発者体験(DevEx)の向上がその本質です。
「社内プロダクト」として成功するための4つの立ち回り
では、開発者に選ばれるプラットフォームを構築するには、どのような立ち回りが必要でしょうか。それは技術力だけではなく、プロダクトマネジメントの視点が不可欠です。
1. "Platform as a Product" の徹底
プラットフォームを単なるインフラの集合体ではなく、「社内製品」として扱います。
- 顧客(開発者)中心: 「何を作りたいか」ではなく、「彼らが何に困っているか」からスタートします。社内ヒアリングやアンケートを通じて、開発プロセスにおける真のペインポイントを特定しましょう。
- プロダクトマネジメント: 提供する機能に優先順位をつけ、ロードマップを公開します。なぜその機能が必要なのか、それによって開発者のどのような課題が解決されるのかを明確に説明し、フィードバックを積極的に収集するサイクルを回します。
2. 「認知負荷(Cognitive Load)」の削減をKPIにする
PEの真の目的は、アプリケーション開発者がビジネスロジックの実装という本質的な価値創出に集中できる環境を提供することです。
- セルフサービス化: 「チケットを起票してインフラ担当に依頼する」というプロセスは、開発者のフローを中断させます。開発者が自身のタイミングで、APIやWebポータルからインフラリソースを払い出せる仕組みを目指すべきです。
- 抽象化のバランス: Kubernetesの複雑なマニフェストファイルを直接書かせるのではなく、よりシンプルなインターフェースを提供して複雑性を隠蔽します。ただし、ベテラン開発者のために、必要に応じて詳細設定にアクセスできる「逃げ道」を用意することも、反感を防ぐ上で重要です。
3. 「エバンジェリスト」としての社内マーケティング活動
どんなに優れたプロダクトも、知られなければ使われません。
- アーリーアダプターの巻き込み: まずは協力的なチームを見つけ、彼らの課題解決を全力でサポートします。そして、「あのチーム、新しいプラットフォームを使ったら開発速度が劇的に上がったらしい」という成功事例を作り、社内に口コミを広げます。
- ドキュメントとオンボーディング: Auth0の優れたドキュメントのように、私たちのプラットフォームも「ドキュメントを読み進めるだけで使い始められる」状態を目指します。Getting Startedガイドや具体的なユースケースのサンプルは、導入のハードルを大きく下げます。
4. 適切な「コンテキスト境界」の見極め
プラットフォームがどこまで責任を持ち、どこからアプリケーションの領域とするか。この境界線の見極めが極めて重要です。
- 非機能要件に集中する: どのプロジェクトでも共通して必要となる「非機能要件」(CI/CDパイプライン、監視、ログ収集、セキュリティスキャンなど)はプラットフォームが引き受けます。一方で、プロジェクト固有の「ドメインロジック」には絶対に干渉しないという境界線を死守することが、信頼関係の構築に繋がります。開発者が「面倒なことは任せられるが、自分たちのコアな部分は自由に作れる」と感じられる状態が理想です。
まとめ
プラットフォームエンジニアリングの成功は、高度な技術力だけで達成できるものではありません。それは、開発者のペインを深く理解し、彼らの生産性を最大化するための「開発者体験(DevEx)をデザインする、社内プロダクト運営能力」そのものです。
技術とビジネスを繋ぎ、価値を最大化するという私の信条において、PEはまさにその思想を組織レベルで体現する取り組みです。Auth0が選ばれる理由を深く考察することで、私たちは開発者から真に愛されるプラットフォームへの道を切り拓くことができるでしょう。